とら目線

創作と向き合う

中指立ててけ! ---『ガールズバンドクライ』1+2話感想---

春アニメは強豪揃いだ。どの作品も設定がよく練られていて面白い。その中でも『ガールズバンドクライ*1』は少ない話数で大きなインパクトを残してくれた。

 

仁菜との共鳴を感じた私 ---高校時代---

なぜガルクラが強い印象を残したかと言えば、仁菜の境遇が私と似ていたからだ。いじめ等は無かったものの、人間関係のいざこざで居場所を無くした私は全日制高校を中退し通信制高校に転学した。二学期が始まった少し後、まだ本格的な寒さが到来する前のことだ。高校一年生の十六歳、私は全てを失った*2

通信制高校では大した授業をやらないので塾に通い受験勉強を始めた。負けたくなかった。何とか落ちこぼれの烙印から逃れたかったし、居場所を奪っていった相手も見返したかった。そうは言っても一人は辛い。自分が何も出来ないことを知った。這いつくばらなければ生きていけない日々を過ごした。そうした時間を積み重ねて、元居た高校では合格率の低い難関私大に滑り込んだ。スッとしたし「ざまぁみろ」と思ったものの、何処か受験に対して本気になれなかった自分自身を不思議がってもいた*3

大学に入って直ぐに気付いたのは「私の居場所はここじゃない」ということだ。敷かれたレールの上に戻るべきではなかった。既に孤独を味方につけ暗がりに安心感を抱いていた私にとって、雑然とした可能性だけが溢れる空間は毒でしかなかった。

だからだろうか、仁菜がキラキラして見えたのは。

仁菜は逃げるように高校を辞め上京している。何者かになる勇気はなく、"親との約束"である受験勉強を始めるところまでは私と変わらない*4。しかし自分自身と闘っている。桃香と会ったのもバンドを始めるきっかけを得たのも自分の足で川崎まで来たからだ。「せからしかー!」と叫び電灯を振り回す仁菜はパンクロックの精神を持っている。自身に降りかかる現実に立ち向かえる彼女は可愛そうな奴なんかじゃない。

高校時代の私は可愛そうな奴だった。自分のエピソードを話せば何処に行っても同情されたし親身になってもらえた。それが一番嫌だった。優しくされると「可愛そうな奴」である自分が確定してしまうような気がしていた。しかし今振り返ってみればちゃんと「可愛そうな奴」として振舞うべきだった。仁菜を取り巻く環境は高校生にしてはハードだ。上京後も孤独な生活を続けている。しかしボロボロ泣いてみっともなく喚き散らして、子どもみたいに前に進んで行こうとする仁菜は単に可愛そうなだけではない。周囲に気の毒がられ手を差し伸べられるだけのお人形さんでもない。現に(助けてくれる相手にも)迷惑を振りまきながら自身の罪を重ねる仁菜は、心底"人間"として存在している。一方的な役割ではなく相互に循環する関係の中で生きている。それは居場所を用意してもらうのではなく自分自身の手で掴み取ろうとする"人間"の歩みだ。「勉強して大学に入れば居場所が手に入る」と考えていた私は閉じた空間を行き来するロボットになっていた。それが私と仁菜の違いであり、彼女が輝いて見える理由であり、この作品が深く刺さった所以だ。

この身体 根城に よく汗を拭ってる

哀しみという影も形もないモノに 時々 身体の全部を冒されながら 

tacica/ねじろ

現れた新星 ---安和すばる---

『夜行性の生き物3匹』の終盤から登場した安和すばるも親近感を抱いたキャラクターだ。器用ではないがいい奴だ。拒否反応を起こした仁菜のために身を引こうとしているし、しゃぶしゃぶ屋でも気丈に話を回してくれる。しかし相手を思っているはずの行為が次々と地雷を踏み抜いていく。同じ鍋を突いたことのある桃香が「仁菜は野菜クタクタ派だ」と伝えなきゃいかんだろう……!(モンペ)

すばるが不興を買った理由は既に書いてある。仁菜は確かに人間関係で転げ落ちているが、地の底から這い上がろうと必死にもがいている。彼女は手を差し伸べてほしいのではない、一緒に走ってほしいのだ。すばるの優しさは無意識に上下関係を規定し、仁菜の尊厳を踏みにじってしまう。循環の無い関係性は誇り高いプライドを持つ仁菜にとって耐え難いものだ。無条件に優しさを押し付けられれば当然拒絶する。そういう生き物なのだ。

またすばるが穏健な態度を取るのは争いを避けるためだが、この後に電灯振り回したり本音で桃香と話して理解し合うように*5仁菜は嘘を嫌い本心を大切にするタイプだ*6。その為すばるの優しさは実際のところ保身にしかなっていない。ややこしいのは社会的に"正しい"のがすばるの方であることだ。初対面の相手に明け透けなコミュニケーションを取るべきではない、いや取ってはならない。その常識を守ったからこそ仁菜を傷つけている。

決定的に好きになったのは「めんどくせ~~~!」のシーンだが、仁菜が突然帰ってキョトンとしている辺りですばるに信頼を寄せ始めていた。常識という鎧を纏い、薄っぺらな言葉を並べ立てるのは心の奥底に守りたい"何か"があるからだ。まだ見せていないだけで面白い部分を持っている子だと確信できた。実際のすばるはゲラゲラ笑いながら人に指差す最低の女である。"同類"と分かった時点で遠慮が無くなる変わり身の早さは、普段(興味もない)誰かの為にマナーを守り空気を読み、人知れず傷ついている証だ。不器用でもいい奴なのだ。そんなキャラクターを嫌いになれるだろうか。

選べる程 手段はないのに

悩み抜いた様な服を着て

その卑怯になった眼差しを

見損なえたなら 針を持て 

tacica/馬鹿

『夜行性の生き物3匹』はそれぞれの事情で昼(光)の時間帯に心を擦り減らし、夜な夜な闇に紛れて涙を流す三人の邂逅を示している。熊本と旭川では決して出会えなかった二人が運命の如く惹き寄せられる『東京ワッショイ』に続いて秀逸なサブタイだ。細かいところで作品の地力を発揮しているのを見ると、今後の展開にも期待が高まる*7

 

中指立ててけ!

胸に突き刺さるキーワードを引っ提げて始まった本作だが、東映アニメーションが制作し著名なスタッフを揃えている中で何処までパンクロックの精神を描けるだろうか。HP公開から一年足らずで7th singleの発売に漕ぎ付けている中々大きいプロジェクトでもあるようだし、中弛みした展開になってほしくないところ。うん、夢がないことを書いた。大きく育てガルクラ、川崎はいいところだぞ。

振り向いたら さっきまでの未来図が幻になりそうで

ただ我武者羅にやった彼奴の為に

今 歌いたいんだ 

tacica/ホワイトランド

 

youtu.be

girls-band-cry.com

*1:以下ガルクラ

*2:小中の人間関係は高校入学時点でほぼ残っていなかった

*3:合格した大学は中の上くらいの中途半端な立ち位置である

*4:全日制高校に転学するのを拒んだ私に親が出した条件が『受験勉強を怠らないこと』だった

*5:一話から桃香と正面切って話していたように

*6:時には言い争いも辞さない

*7:二話ともロックバンドの楽曲から引用しているらしい。ぼざろやブルリフと同じか