とら目線

創作と向き合う

ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会8話 『しずくモノクローム』 感想

自分を演じる少女と、自分を信じる少女の物語。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

『しずくモノクローム

 

‘‘影’’を恐れる少女、桜坂しずく。彼女は自身の感性が希少な為に奇異の目で見られるのではないかと恐怖し、嫌われることにも強い忌避感を抱いている。

 

あたかも手のかからない優等生のように振る舞い、胸の内にある演劇への情熱や、普段の生活でふと抱くようなズレを隠して生きてきた。その努力は彼女に平穏を与えたものの、感情を切り捨てたことで強い自己否定感に苦しみ、8話冒頭では、「自分を曝け出せない」ことが原因で(演劇部の)主演を降ろされてしまう。

 

誰だって、本当の自分を曝け出したい。継ぎ接ぎだらけの毛布を捨てて、自分を好きになりたい。その願いとは裏腹に、仮面の少女は恐怖や不安をうまく表現できない。“影”の部分を表した時に迫ってくるかもしれない、様々な困難に立ち向かう勇気がないからだ。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

だから、誰かが引っ張り上げる必要がある。今回彼女に力を与えるのは、いつでも『私超かわいい』を貫くスーパーナルシスト、中須かすみだ。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

僕たちは、中須かすみが「世界一カワイイかすみん」であるために、自身の“影”の部分をむき出しにし、ライバルを威嚇し、返り討ちに遭うところを見てきた。彼女は人の最も泥臭いところと向き合い、その願いが逆風や葛藤を生み出そうと、真正面から立ち向かってきた女の子だ。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

歩夢にドン引きされたり、せつ菜・果林に詰められたり…8話冒頭でも、しずくがインタビューを受けている後ろで、さりげなく‘‘笑い’’を引き出している。人の感情を自然と受け止められるのが、かすみんの強いところだ

 

そんな彼女の強さは、しかし前半部においてしずくを助ける手立てにならない。「パーッと遊んでストレス解消」は、あくまで中須かすみを勇気づける方法だからだ。桜坂しずくに力を分け与える為の手段としては、的を外してしまっている。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

お行儀よく‘‘遊べる’’こと、それが彼女に与えられた才であり、苦悩でもある

 

けれど、友達に(強制)連行された先で気の緩んだしずくは、自身と深く結びついている演劇の世界を見て、瞳が揺れる。普段なら厳重に鍵をかけられ、決して表には出てこない本音が零れる。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

天王寺璃奈は、その揺らぎと、即座に笑顔の仮面を付け直し、平気な顔に‘‘なる’’しずくを見逃さない。それは「どうしても人の目が気になってしまう」経験に悩み、仲間の支えによって道を切り開いてきた彼女にだけ見える景色だ。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

「受け入れられないかもしれない」恐怖を真正面から踏み倒してきたかすみんより、その恐怖に圧倒されて孤独感と戦い続けてきた璃奈の方が、しずくへの視点に近い。

 

だから、かすみへの橋渡しは彼女が務める。6話を超えた璃奈は、誰かが自分に寄り添い、励ましてくれることの意味、それがもたらしてくれる力を知っている。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

強い意志のこもった、彼女らしい真剣な目。この‘‘らしさ’’もまた、一つの物語を超えて生まれたものだ

 

けれど、言葉にして想いを伝えるなら、自分に相談を持ちかけてきた…しずくと多くの時間を共にし、パーソナルゾーンに踏み込めるだけの‘‘特別’’を作ってきた、貴方の方が適任だ。璃奈に目で訴えかけられ、かすみも自分のなすべきことに気付く。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

りなりーの役目はここで終わりだが、「ファイト!」の直前、ボードを出す時の表情が、彼女の芯の強さを感じてとてもいい。

 

かくして、物語はクライマックスを迎える。追い込まれたしずくは、教室の隅に引きこもっている。親友すら拒絶し近寄らせない、堅牢な絶望の果て。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

それを崩すために、かすみは”光”の部分へ踏み込み、率直な想いを届ける。頑固でもいい、意地っ張りでもいい。だけど、せめて自分の前では辛い顔を隠さないで。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

それはしずくの引きこもりたい願望を無視した我儘で…けれど4話の言葉を借りるなら、彼女を助けるための「良い我儘」だろう。

 

ゼロ距離の熱意によって、やっとしずくの本音が引き出される。人が怖い。必ずしも綺麗なだけではない、複雑で、未確定な人の心。その内面に潜む”影”が恐ろしくて、激しい衝突や葛藤に晒されたくなくて、自分の方も感情を隠すようになった。

 

その仮面は、最早外そうと思って外せる段階を超えて、心の奥から常に自分を責め立てている。自分の苦悩すら晒せない私に、人を惹きつける演技なんて出来るわけがない。だから私は、あの子を演じる資格も、スクールアイドルを続ける自信もない…

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

背を向けた友人に、かすみは手を振りかざし…デコピンに思いを乗せる。しずくの絶望に触れても、彼女は前を向き、言葉の中に想いを託す。確かに、皆が自分を受け入れてくれるかどうか分からない。バカにする人だっているかもしれない。けれど、何が起こっても、どうあろうと、私は貴方のことが大好きだから。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

その熱量を叩きつけられるのは、人の心にある‘‘影’’や、自己認識と現実の溝といった激流に晒されながらも、彼女が「かすみん」であることを諦めなかった証左だ。周りに何と言われようが、一番カワイイのはワタシ。譲らない信念が、友人を解き放つ力になる。

 

この世界中でたった一人だけの私を もっと好きになってあげたい

この世界中の全員がnoだって言ったって 私は私を信じていたい

無敵級*ビリーバー/中須かすみ(CV.相良茉優)

 

けれど、 (だからこそ)彼女は桜坂しずくの心うちを完全には理解できない。人と人の間には必ず断絶があり、ぴたりと一致することはない。それに、かすみがどれだけしずくを思いやろうとも、全く別の場所から降る槍には干渉できない。

 

それでも辛い時は、苦しさを半分個に出来る。喜びを分かち合って、共にすることが出来る。『あなたと叶える物語』―それが、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のコンセプトだ。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

アニメ虹ヶ咲は、「ソロアーティストの9人が、スクールアイドル同好会に集まる理由」にも焦点を当てた物語だ

 

熱いラブコールを受けて、しずくはオーディションに合格し、舞台へと立つ。心にずっとしまい込んできた、「やっぱり歌いたい」という感情。それを真正面から受け入れて、白と黒が混ざり合う。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

苦悩を感じさせる、雨の降りしきるステージ。けれど、雨は彼女の味方だ。どれだけ強い雨が降っていようと、やがて空は晴れ渡り、虹がかかる。そして虹がかかれば、彼女はもう迷うことはない。長く振り続けた雨が、そこから引き上げてくれた貴方が、一つの「桜坂しずく」を連れてきてくれた。もし(外の世界に)雨が降っても、内なる自分が揺らがないのなら、怖いものなどない。

 

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©2020 プロジェクトラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会

 

というわけで、演劇は大成功、かすみんの手首は高速回転、『本当の私を見てください』で8話終了である。「本当の自分」というテーマは普遍的過ぎるが故に難しく、ともすれば桜坂しずくというキャラクターごと埋没しかねない(誰でも同じ)にも関わらず、たった20分でここまで視聴者の心に刻み付ける物語に仕上げる脚本陣、本当に凄まじいと感じさせられましたね。

 

(以下ゆる~く私的な感想)

 

正直、「本当の自分」というテーマなら、自分を表出できないことよりも、自分が存在しない=自己が確立していない=無限の可能性がある(yes 放課後のプレアデス)という展開の方が好きだったりします。実は虹ヶ咲1stで『オードリー』を浴びた時に、もしかしたらしずくちゃんの物語は、プレアデスに近い話なのかなと、密かに期待したりしていました。その願いは叶いませんでしたが、8話は桜坂しずくという人のエピソードとして、完璧に近いものがあったと思います。本文がその補佐として、何かしらのお役に立てたなら嬉しい限りです。

 

時節としては残すところ二話、11話放送も明日にまで迫ってきました。物語がどのような形で終わりへ向かうのか、それとも希望や目標を残して次のステージへ進むのか、まだなんとも言えないところですが、放送を楽しみに待ちたいと思います。